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【交通税と県議会の攻防・第5回】 税制審議会の答申。上下分離後に赤字転落した信楽高原鉄道

更新日:4月19日

今回のポイント

今回は2つの議会資料を取り上げます。令和3年(2021年)6月定例会議(7月2日)の成田政隆議員と知事のやり取り、そして同年7月9日の土木交通・警察・企業常任委員会における交通政策関連の議論です。

この時期に何が起きたのか。最大の出来事は、令和3年4月21日に滋賀県税制審議会から知事への答申が出されたことです。そしてその答申を受けて、知事は秋頃を目途に「次の諮問」を行うと宣言しました。


注目すべきポイントは以下の通りです。

  • 税制審議会が「地域公共交通を支えるための税制について導入可能性を検討していくべき」と答申したこと。交通税が「検討すべき」という公式のお墨付きを得た。

  • 答申の原文を検証したところ、答申自身が「ビジョンづくりと並行して進めるべき」と条件を付し、歳出削減の視点は完全に欠落し、「導入しない」選択肢も実質的に想定されていなかったこと。

  • 知事が秋頃に改めて諮問を行うと表明し、交通税の議論が「検討段階」から「具体化段階」に移行する意思を示したこと。

  • 常任委員会で、近江鉄道の上下分離や信楽高原鐵道の赤字転落を踏まえた「公共交通の費用負担」議論が活発化し、交通税の背景となる「危機感」が共有されていったこと。

  • 一方で、交通基本条例の制定や交通ビジョンの策定は「これから」であり、税制の議論だけが先行する構図が変わっていないこと。

 


チームしが県議団 成田政隆議員」 交通税議論が先行しすぎ

6月定例会議(7月2日)の概要


成田政隆議員の質問


成田議員は、4月21日に出された税制審議会の答申について知事に質問しました。答申では「滋賀にふさわしい税制の目指すべき方向性」として5つの方向性と、「合意形成の在り方」として4つの事柄が提示されたとのことです。

成田議員はさらに、フランスの交通権と交通税に言及した上で、「交通税に関する議論が先行しているが、地域公共交通の位置づけを明確化する条例と両輪で議論を進めていくべきではないか」と提案しました。この指摘は、税の議論だけが先走っている現状への問題提起として注目に値します。



知事の答弁

知事は答申の内容について、「地域公共交通を支えるための税制について導入可能性を検討していくべき」とされ、都市計画・交通計画との関係、県の役割、課税方式と使途の3点について引き続き議論が必要とされたと説明しました。

その上で、「この提言は大変重いものであると受け止めており」として、「今年度秋頃を目途に、改めて滋賀県税制審議会に対して次の諮問を行うことを予定しております」と表明しました。

知事はここでも定番のフレーズを使っています。「着実に、かつ逃げずに、それでいて丁寧かつ謙虚な姿勢を忘れずに議論を前に進めていきたい」──第4回で分析した「逃げずに」の表現がここでも繰り返されています。

交通基本条例については、「交通に関する条例の必要性や、公共交通を支える費用負担、分担の在り方等についても議論をしながら」としつつも、具体的なスケジュールは示されませんでした。交通ビジョンの改定は「令和5年度に見直すべく検討を開始した」段階であると答弁しています。


【資料検証】税制審議会答申(令和3年4月21日)が語ること、語らないこと


県議会での答弁だけでなく、答申そのものの原文を検証します。この答申は全5ページ、「目指すべき方向性」「合意形成の在り方」「具体的提言」の3部構成です。



答申の構成と概要


第1部「目指すべき方向性」では、5つの方向性が示されています。コミュニティの強化につながる税制、脱炭素社会の実現へ向けたグリーンな税制、デジタル化に対応した税制、産業構造の転換に対応する税制、そして県としての役割を果たす税制です。

第2部「合意形成の在り方」では、4つの事柄が挙げられています。議会・住民参加による合意形成(多様な住民参加のバリエーション、住民同士の対話の場、応答性のある住民対話)、自治体間の議論の場、証拠に基づく税制立案(EBPM)、受益の可視化です。

第3部「具体的提言」では、地域公共交通を支えるための税制、コロナ後の戦略的税制(グリーン化・デジタル化)、琵琶湖を活用した税制、その他(住民税の現年所得課税化、宿泊税、炭素税の地方配分)が提言されています。

答申が語っていること


地域公共交通に関する提言の核心部分は、次の一文です。

「地域公共交通を支えるための税制については(中略)その導入可能性を検討していくべきである。」

ただし、この文には重要な条件が付されています。答申は「合意形成のプロセスを尊重することを前提に」と明記し、さらに「計画づくりとの関係」「県の役割」「課税方式と使途」の3点について「引き続き、議論を続けていく必要がある」と述べています。

特に「計画づくりとの関係」の項では、「税制構築に向けた議論は、計画づくりやビジョンづくりと並行して進めるべきもの」と明確に記されています。交通ビジョンの改定は令和5年度の予定であり、答申自身が「ビジョンなき課税」を戒めているのです。

答申が語っていないこと

答申を精読して浮かび上がるのは、語られていない論点の存在です。

1. 歳出削減の議論が完全に欠落している

2. 「導入しない」という選択肢が想定されていない

3. 具体的な税額・負担規模が一切示されていない

4. 合意形成の方法論は充実しているが、「合意しない権利」が軽視されている


常任委員会(7月9日)の議論の概要

7月9日の常任委員会では、交通税そのものが直接の議題ではありませんが、交通税の背景となる公共交通の経営問題が複数の論点で議論されました。



コロナ禍の交通事業者支援


黄野瀬委員の質問に対し、交通戦略課長がバス・タクシー・湖上交通・地域鉄道への補助について説明しました。利用者減少の数値要件は設けず、4か月分の経費を対象としています。

信楽高原鐵道の赤字転落


上下分離方式移行後、初めて赤字に転落したことが報告されました。目片委員は「この事実は非常に重く、今後の近江鉄道にも非常に大きな影響を及ぼす」と指摘しています。上下分離方式にすれば経営が安定するという前提そのものに疑問を投げかける重要な事実です。



近江鉄道の上下分離方式


川島隆二委員は、近江鉄道の第二種鉄道事業者としての経営努力について「何か頑張りが足りない」と指摘し、上下分離後の将来像を問いました。交通戦略課長は「上下分離方式を取っても、利用者がしっかりと確保できないことには、経営が黒字にならないということが分かっている」と認めています。

川島委員はさらに、JRの減便問題にも言及し、「湖西線、草津線もそう。公共交通機関の全体の在り方を考えていかなくてはいけない」「近江鉄道だけの話ではなく、県の鉄道事業の今後の行く末を考えておかないといけない」と述べました。これに対し交通戦略課長は「経費の負担についてもどのように考えていくのか、そうした議論は避けて通れない」と答弁し、交通税との関連を示唆しています。


国スポ施設整備の巨額経費

黄野瀬委員が金亀公園の整備(国スポ関連、500億円超の事業)について、縮減努力を問いました。回答は「約1億6,000万円の縮減」──全体の0.3%程度に過ぎません。黄野瀬委員は「コロナ対応に経費も職員体制も集中するために、事業の見直し、縮減、あるいは一旦中止も含めて考えていただきたい」と求めています。



問題点

1. 答申が「お墨付き」となり、交通税が既定路線化しつつある

第3回で検証した通り、税制審議会の議論はもともと「結論ありき」の構造を持っていました。その審議会から「導入可能性を検討していくべき」という答申が出たことで、交通税は「県が勝手に言っているだけ」の段階から「有識者のお墨付きを得た」段階に進みました。

しかし、答申の原文を精読すると、答申自身が「計画づくりやビジョンづくりと並行して進めるべき」「合意形成のプロセスを尊重することを前提に」と条件を付しています。知事が「この提言は大変重い」と述べて秋の再諮問を予告する一方で、答申が求めた条件(ビジョンの策定、合意形成プロセスの整備)は未達成のまま税制議論だけが先に進んでいます。答申の「重さ」は都合よく受け取り、答申の「条件」は後回しにする──この使い分けは問題です。

さらに、答申には歳出削減の視点が完全に欠落しており、「導入しない」という結論も実質的に想定されていません。県民がどの程度の負担を求められるのかという試算もありません。「証拠に基づく税制立案(EBPM)」を掲げながら、負担の規模感すら示さない答申は、自ら掲げた原則と矛盾しています。


2. 条例もビジョンもないまま、税制だけが「次の段階」に進んでいる

成田議員が「交通税の議論が先行している」と指摘し、条例との両輪での議論を提案したのは的確です。しかし知事の答弁を見ると、交通基本条例は「必要性について議論する」段階、交通ビジョンの改定は「令和5年度に見直すべく検討を開始した」段階にとどまっています。

一方で交通税は「秋に再諮問」と具体的なスケジュールが示されています。条例もビジョンもない中で税だけが先に進む──知事自身が第4回で「ビジョンをお示しすることが前提」と述べたにもかかわらず、その前提が満たされていない状態で税制の議論は加速しています。


3. 上下分離の「成功モデル」が揺らいでいる

信楽高原鐵道が上下分離後初の赤字に転落し、交通戦略課長自身が「利用者が確保できなければ黒字にならない」と認めた事実は重要です。上下分離方式は「行政が下(インフラ)を持ち、民間が上(運行)で黒字を出す」という前提で設計されていますが、その前提が崩れつつあります。

近江鉄道もこれから上下分離に移行しますが、信楽高原鐵道の実績がそうであるように、上下分離にしても利用者が増えなければ赤字は続きます。そして赤字が続けば、追加の公費投入が必要になります。交通税は、その「追加の公費投入」の財源として位置づけられていく可能性があります。つまり、上下分離の失敗を交通税で穴埋めするという構図です。


4. 500億円の国スポ事業は聖域のまま

黄野瀬委員が指摘した国スポ関連の金亀公園整備は500億円超の事業で、縮減実績はわずか1億6,000万円。交通税で県民に新たな負担を求める議論をしながら、500億円規模の施設整備は「与えられた事業をやり切る」という姿勢のまま進んでいます。

歳出の見直しなき増税議論の矛盾が、ここでもはっきりと表れています。

滋賀県減税会のコメント


税制審議会の答申が出たことで、交通税は新たな段階に入りました。しかし答申の原文を読めば、「導入可能性を検討していくべき」は「導入すべき」ではなく、「計画づくりと並行して進めるべき」「合意形成プロセスを前提に」という条件が付されています。知事はこの答申を「大変重い」と受け止めて秋の再諮問を予告しましたが、答申が求めた条件は未達成のまま税制だけが先に進んでいます。

答申の最大の問題は、歳出削減という選択肢が完全に欠落していることです。審議会の場では委員自身が「スクラップアンドビルドなしに住民は納得しない」と警告していたにもかかわらず、答申にはその視点が反映されていません。また、合意形成の手法は丁寧に記述されていますが、それらはすべて「増税を受け入れるための技術論」であり、住民が検討の結果「反対する」権利は軽視されています。

常任委員会では、信楽高原鐵道の上下分離後初の赤字転落という事実が報告されました。上下分離は万能薬ではなく、赤字が続けば交通税で穴埋めする構図が生まれます。一方で500億円超の国スポ施設整備はわずか0.3%の縮減で「努力した」とされています。

答申が「証拠に基づく税制立案(EBPM)」を掲げるなら、まず既存事業の事務事業評価を全面公開し、県民に負担の規模と根拠を示すべきです。


答申を「錦の御旗」として交通税が加速していく過程を、引き続き検証してまいります。

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