交通税と県議会の攻防【第4回】「逃げずに議論する」という決意表明と、膨張する正当化ロジック
- 喜多G13

- 1 日前
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今回のポイント
今回取り上げるのは、令和3年(2021年)3月4日の予算特別委員会における、チームしが会派(当時)の九里学委員と三日月知事のやり取りです。
これまでの第2回(井阪議員)、第3回(松本議員)では、質問者が交通税に対し一定の距離感や批判的視点を持っていました。しかし今回の九里委員)は、明確に交通税の導入を後押しする立場から質問しています。つまり、この回は「攻防」ではなく「追い風」の回です。
注目すべきポイントは以下の3点です。
知事が「税というものをどう考えていくのかということからも逃げずに議論をしていきたい」と、事実上の決意表明を行ったこと。
交通税の正当化ロジックが「交通弱者の救済」から「脱炭素」「DX」「地方創生」「コミュニティ活性化」「新産業育成」へと急速に膨張したこと。
税制審議会からの答申が翌月に迫り、交通税がいよいよ具体的な政策課題として動き出す直前の時期であったこと。
九里学委員の質問のまとめ
九里委員は、コロナ禍が少子高齢化に追い打ちをかけ「地方交通の消滅が地方の行政自身をもなくしてしまう」という強い危機感から質問を展開しています。
質問の骨子は以下の通りです。
まず、知事が国会議員時代から交通政策に取り組んできた経歴に触れ、「地方交通衰退に待ったをかけられる」人物として期待を表明。
次に、フランスなど先進諸国を引き合いに出し、「県民に交通を保障する権利、移動交通を行政が保障する代わりに、一定公共交通を支える新たな税の負担を課す、そうした仕組みも必要なのかも分かりません」と、交通税導入への賛意を示しました。
九里委員は加えて、複数路線事業者の協業、エリアごとの共同運行・共同経営、地域法定協議会の設置といった具体策も提案しており、「抜本的な本質的な改革断行に向け、予算化をすべき」「地方創生の要は、生活交通の維持確保をおいてあり得ません」と、強い推進姿勢で質問を締めくくっています。
なお、余談ではありますが、九里議員は令和8年の今もまだ滋賀県議ですが、令和6年6月に向日市議とW不倫を週刊誌(文春)に指摘され、翌月にチームしがを離脱しています。https://bunshun.jp/articles/-/71767
知事の答弁のまとめ
知事の答弁は、交通税に関する質問への回答と、最後の「決意表明」の2段階に分かれています。
交通税に対する所見
知事は「子供から高齢者まで、障害のある人もない人も、住んでる人も来られた方も、いつでも誰でも利用できる地域公共交通」を掲げた上で、「税によっても分かち合うという考え方もあるのではないか」と述べました。
同時に、「新たに何らかの負担を求めようとする場合には、県民の皆様に御理解をいただく必要がある」「どのような社会や交通、都市等を実現しようとしているのかについてのビジョンをお示しする」ことが前提だとし、「都市計画や交通ビジョンをめぐる議論と並行して、新たな税負担の導入可能性についても、引き続きしっかりと丁寧に議論を深めてまいりたい」と答弁しました。
公共交通維持に向けた「決意」
最後の質問に対し、知事は多角的な論点を展開しました。
住民の意思:「まず私たち住民がどう思うかです」
コミュニティ:「コミュニティ活性化に資するかどうか」
自治:「交通の議論は、やはり自治そのものではないか」
国と市町の役割分担:まちづくり・福祉は市町、最低限の生活保障は国
脱炭素:「公共交通を維持し、もっと多くの方々がそれを利用するということは、間違いなく現状においては脱CO2に資する」
DX:「乗りたい人がこんなにたくさんいらっしゃって、運びたい人がこんなにたくさんいらっしゃるのをつなぐのは、デジタルトランスフォーメーション」
受益の可視化:「交通によってどれだけの受益が、利用者のみならず、社会や地域にあるのかということを可視化していくことも重要」
これらの論点を並べた上で、「費用をどのように分担していくのか、その分担の1つのやり方として、税というものをどう考えていくのかということからも逃げずに議論をしていきたい」と締めくくりました。
問題点
1. 「逃げずに」という言葉の意味するもの
知事の「逃げずに議論する」という表現は、一見すると誠実な姿勢に聞こえます。しかし、これは「増税を前提とした議論から逃げない」という意味であり、「増税以外の選択肢も含めて検討する」という意味ではありません。
歳出削減から逃げない、事業の無駄を洗い出すことから逃げない、規制緩和の可能性から逃げない──そうした姿勢は示されていません。知事にとっての「逃げない」は、増税の方向に向かって進むことと同義になっています。
2. 正当化ロジックの急速な膨張
第2回(2018年)の段階では、交通税の理由は「交通弱者の救済」と「公共交通の維持」でした。それが今回の答弁では、脱炭素、DX、コミュニティ活性化、自治の追求、新産業育成、地方創生、受益の可視化と、あらゆる政策テーマが交通税の正当化根拠として動員されています。
これは一見すると「多角的な視点」に見えますが、裏を返せば、交通税だけでは単独で正当化できないことを知事自身が認識していることの表れです。単独では弱い論拠を束ねて量で押し切ろうとする構図は、政策的な説得力というよりも、政治的なレトリックと言うべきものです。
3. 「ビジョンが前提」と言いながら、ビジョンが示されていない
知事は「どのような社会や交通、都市等を実現しようとしているのかについてのビジョンをお示しする」ことが前提だと自ら答弁しています。しかし、この時点(2021年3月)で、そのビジョンは県民に示されていません。
滋賀県都市計画基本方針は「新年度に策定予定」、滋賀交通ビジョンの改定は「令和5年度予定」です。つまり、ビジョンがない段階で税の議論が先行しているのです。知事自身が「ビジョンが前提」と述べたその同じ答弁の中で、ビジョンなき税制議論を進めている矛盾がここにあります。
4. 推進派の質問が議論の幅を狭めている
今回の九里委員の質問は、交通税の導入を前提とした上で「もっと早く」「もっと大胆に」と迫るものでした。こうした「追い風」型の質問は、知事に増税への決意を表明させる場を提供する一方で、「本当に増税が必要なのか」「歳出削減で対応できないのか」「民間活力を活かす方法はないのか」といった根本的な問いを封じてしまいます。
議会が本来果たすべきチェック機能は、行政の施策を多角的に検証することにあります。推進派の質問だけが続く状況は、議会としての議論の厚みを欠くものです。
滋賀県減税会のコメント
今回の答弁で知事は「逃げずに議論する」と述べました。しかし、私たちが問いたいのは、知事が「逃げている」のはむしろ別のことではないか、ということです。
既存事業の事務事業評価の全面公開から逃げていないでしょうか。人件費を含めた正確なコスト構造の開示から逃げていないでしょうか。歳出構造の抜本的見直しから逃げていないでしょうか。
交通税の正当化根拠が「脱炭素」「DX」「地方創生」「コミュニティ」と次々に膨張していく様子は、逆説的に、単独では県民を説得できないことの証左です。本当に交通税が必要であれば、交通の問題だけで県民を納得させられるはずです。あらゆる政策課題を束ねなければ正当化できない税は、そもそも筋が悪いのです。
知事は「ビジョンを示すことが前提」と自ら述べながら、ビジョンが存在しない段階で税制の議論を進めています。この矛盾は、第3回で検証した「結論ありき」の構造と地続きです。
私たちは増税の議論から「逃げない」ことよりも、まず歳出削減と情報公開から「逃げない」ことを知事に求めます。
次回への展望・注目点
2021年3月の時点で、交通税の議論は大きな転換点を迎えています。税制審議会からの答申が翌月に迫り、知事は「逃げずに議論する」と事実上の決意表明を行いました。
次回以降、以下の点に注目して検証を続けます。
税制審議会の答申の内容:どのような形で交通税の方向性が示されたのか。
「ビジョンが前提」の約束:知事が答弁で述べた前提条件は、実際に満たされたのか。
県民との合意形成:「丁寧かつ慎重に」という繰り返される言葉に、実態が伴ったのか。
推進派の追い風を受けて加速する交通税の議論に、議会のチェック機能はどう働いたのか。一次資料に基づいて、引き続き検証してまいります。



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