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【交通税と県議会の攻防・特別編】 第12回税制審議会を読む──審議会は「中立の番人」か「推進の共犯者」か


シリーズ:交通税と県議会の攻防 滋賀県減税会


はじめに

シリーズ「交通税と県議会の攻防」では、県議会の議事録を中心に交通税の経緯を追ってきました。今回は特別編として、令和3年(2021年)11月19日に開催された第12回滋賀県税制審議会の議事概要を単独で検証します。

 

この回は、知事が「地域公共交通を支えるための税制の導入可能性」について正式に諮問した回であり、交通税が「検討すべきか否か」の段階から「どう導入するか」の段階に移行した転換点です。

 

議事概要は滋賀県のウェブサイトで公開されており、全24ページに及ぶ詳細な記録です。ここから見えてくるのは、審議会が中立的な検証機関として機能しているのか、それとも交通税推進の一翼を担っているのか、という根本的な問題です。

 


知事の諮問──何を求めたのか

 

知事は冒頭の挨拶で、4月の答申(「導入可能性を検討していくべき」)を受けて「新たな税制の導入に向けた議論をさらに前に進めていき、また、深めていきたいと考えるに至った」と述べ、正式に諮問しました。

諮問の論点は3つです。


1. ビジョンと税制のリンク: 令和4年度・5年度にかけて交通ビジョンを見直す予定であり、その見直しと税制の議論をどうリンクさせるか。

 

2. 県と市町の役割分担: 広域自治体としての県と基礎自治体である市町の関係を、税の議論の観点からどう考えるか。

 

3. 課税方式と使途: 公共交通財源としての税制に特化して、踏み込んだ議論を求める。

注目すべきは、知事がこの議論の経緯を自ら振り返った部分です。「昨年の夏に『かきくけこ』で諮問を行い」「審議会での議論の中から、地域公共交通というテーマが、さらに強く、色濃く、クローズアップされてきた」と述べています。しかし、第3回ブログで検証した通り、「クローズアップされた」のは審議会の自発的議論というよりも、知事自身が「交通税のようなもの」と名指しした結果です。ここでも経緯の語り方に、巧みな印象操作が見られます。



 

委員の議論──何が語られたか


具体的な税源の検討

佐藤委員(副会長)が、税源の候補について初めて踏み込んだ整理を行いました。


 

住民税均等割: 「みんなで広く負担」の趣旨には合うが税収効果が低い。1割上乗せでも約1億円。しかも琵琶湖森林づくり県民税で既に上乗せ済み。

 

住民税所得割: 税収効果は最も高いが、超過課税を実施している自治体が少なく、「あえて滋賀県が悪者になるのか」が問われる。

 

法人二税: 既に超過課税しているため追加負担を求めるのか。あるいは既存の超過課税分の使途を公共交通に限定する方法もある。ただし近隣府県との税率バランスの問題がある。

 

車体課税: 環境対応の全国的な増減税との住み分けが課題。

 

固定資産税: 応益課税として理にかなうが、税収予測が水物。

佐藤委員は「それぞれに一長一短がある」と整理しつつも、「本当に大きな財源が欲しいのであれば、やはり所得割になるのかなという気はする」と述べています。



「負担減」のロジック

 

川勝委員が重要な論点を提示しました。「公共交通を支える新たな税によって負担は増える一方で、公共交通が充実すれば、自動車の税金や保険料などの維持管理費用が減る。負担増と負担減の両方が起こることを、しっかりと伝えていくことが極めて重要」という主張です。


川勝委員はさらに、県が税を徴収して市町に配分する際に、広域的にネットワークを構築する市町に上乗せ配分するインセンティブ設計を提案しました。フランスの事例を引き合いに出しています。

 


「県がやるしかない」

 

佐藤委員も川勝委員も、県と市町の役割分担について「県が主導してやるしかない」という見解で一致しました。佐藤委員は奈良県の「奈良モデル」を引き合いに出し、県がリーダーシップを取って取り組むべきだとしています。

 


諸富会長の富山市礼賛


諸富会長は、富山市の「お団子と串」型のコンパクトシティ政策を詳しく紹介し、都市計画と公共交通の一体的整備を強調しました。ドイツの都市計画も引き合いに出し、コンパクト化と公共交通の連動が「世界標準」であるかのような議論を展開しています。



知事と会長の「共鳴」──審議会の独立性は保たれているか?


この議事概要で最も注目すべきは、知事と諸富会長のやり取りです。


知事は「公共交通の問題については、明治以降、民設民営に頼りすぎてきたところがある」「今は、その『ひずみ』や課題が顕在化してきている」と述べました。

 

これに対し諸富会長は、「戦後の日本では、人口増加と高密度集住により民設民営でも成り立っていたが、そういう時代はもう終わった」「公設民営的な部分が入ってくるという形が、むしろ世界標準になりつつある」と応じ、さらにこう述べています。

 


「三日月知事が、こうやってイニシアチブを取られたことには、とても尊敬をしている」

諮問を受けて審議する側の会長が、諮問した側の知事を「尊敬している」と公式の場で発言する。これは、審議会の独立性と中立性にとって重大な問題です。

 

審議会は本来、知事の施策を中立的・専門的に検証し、場合によっては「導入すべきでない」という答申も出し得る機関であるはずです。しかし、会長自身が知事のイニシアチブを称賛し、「一緒に原理原則を打ち立てていきたい」と表明している以上、この審議会から「交通税は不要」という結論が出ることは、事実上あり得ません。



問題点の整理


1. 「導入するかどうか」が「どう導入するか」にすり替わっている


4月の答申は「導入可能性を検討していくべき」でした。「可能性の検討」には当然、「検討の結果、導入しない」という結論もあり得るはずです。しかし、この回の議論は全員が導入を前提とした制度設計論に終始しています。課税方式の一長一短、税収の配分方法、合意形成のプロセス──すべて「導入する場合にどうするか」の議論です。「導入しない」という選択肢は完全に消えています。


 

2. 歳出削減の視点が一切ない


24ページの議事概要の中に、「既存事業の見直し」「歳出削減」「行政コストの縮減」といった言葉は一度も登場しません。議論の枠組みが「新たな税で何を賄うか」に限定されており、「税なしで賄う方法はないか」という問いが存在しません。

第3回で検証した第7回審議会(2020年7月)では、井手委員が「スクラップアンドビルドなしに住民は納得しない」と指摘していました。しかし、あれから1年以上が経過しても、その視点は審議会の議論に反映されていません。

 


3. 「負担減」の議論が非現実的


川勝委員の「公共交通が充実すれば自動車の維持費が減る」という議論は、理論的にはあり得ます。しかし、滋賀県は典型的な車社会です。公共交通が多少充実しても、通勤・買物・送迎など日常生活のほとんどを車に依存している大多数の県民が、車を手放すことは現実的ではありません。

 

多くの県民にとっての実態は、「車の維持費はそのまま、交通税の負担だけが上乗せされる」です。「負担減」を合意形成の材料として使うのであれば、実際にどの程度の県民が車を手放し得るのか、具体的なデータに基づく検証が不可欠です。



4. 「民設民営の限界」論の危うさ


知事の「民設民営に頼りすぎた」という認識と、諸富会長の「公設民営が世界標準」という主張には、重大な飛躍があります。


日本の公共交通が民営で成り立ってきたのは、それだけの需要があったからです。需要が減少した今、「公的に支えるのが正しい」のか、「需要に合わせてサービスを縮小・転換するのが正しい」のかは、まったく別の議論です。「民営では限界だから公費で」という論理は、あらゆる赤字事業を税金で延命させる論理と同じ構造を持っています。

さらに言えば、「世界標準」として引き合いに出されるドイツやフランスは、日本とは都市構造も人口密度も規制体系もまったく異なります。欧州の事例をそのまま滋賀県に適用できるかのような議論は、比較の前提を欠いています。

 


5. 規制緩和という選択肢が完全に無視されている


公共交通の維持が困難になっている原因の一つは、規制によって新規参入が阻まれ、市場原理が働かない業界構造です。ライドシェアの解禁やオンデマンド交通の自由化など、規制緩和によって民間活力を引き出す選択肢は、審議会の議論の中に一切登場しません。

 

「行政が税で集めて公共交通を支える」という唯一の解決策が前提とされ、「民間が自由に参入して移動手段を提供する」という選択肢は検討すらされていません。



6. 全国への波及リスクへの無自覚

諸富会長は「滋賀県から発信をしていければ良い」「社会的インパクトが極めて大きい」と述べています。つまり、審議会自身がこの取組を全国モデルとして位置づけています。しかし、全国に波及した場合の国民負担増大のリスクについては、一切議論されていません。


滋賀県が「原理原則を初めて打ち立てる」のであれば、その原則が全国に適用された場合にどの程度の負担増になるのかという試算も示すべきです。




滋賀県減税会のコメント

 

この議事概要を読んで最も強く感じるのは、審議会がもはや「中立的な検証機関」として機能していないということです。諸富会長が知事を「尊敬している」と公言し、「一緒に原理原則を打ち立てたい」と表明している時点で、この審議会から交通税に否定的な答申が出ることは期待できません。

 

審議会の6名の委員(うち4名出席)は全員が学識経験者です。学識経験者の知見は重要ですが、彼らは県民の負担を直接引き受ける当事者ではありません。県民の家計に新たな税がどの程度の影響を与えるか、その実感を持って議論しているとは思えません。

 

知事が「民設民営に頼りすぎた」と述べ、会長が「公設民営が世界標準だ」と応じる。この認識の共有こそが、交通税推進の思想的基盤です。しかし、「公的に支える」とは「税金で支える」ということであり、「税金で支える」とは「県民の財布から出す」ということです。その重みが、この議事概要からは感じられません。

 

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