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【交通税と県議会の攻防・第8回】有識者が語る「公的支援は当然」の論理


【交通税と県議会の攻防・第8回】有識者が語る「公的支援は当然」の論理

シリーズ:交通税と県議会の攻防 滋賀県減税会


今回のポイント

今回は、令和4年(2022年)5月26日と6月17日に開催された公共交通・国スポ・障スポ大会対策特別委員会を取り上げます。


注目すべきポイントは以下の通りです。


  • 県が「交通税」という言葉を公式には使っていないことが明らかになった。行政用語は「地域公共交通を支えるための税制」。

  • 松本利寛委員が「増税を前提に議論されたのではないか」「既存の税財源の中で配分を見直す議論はされたのか」と根本的な問いを投げたこと。

  • 6月の委員会で関西大学・宇都宮浄人教授が参考人として招かれ、「公共交通の独立採算が成り立つ国は世界にない」「公的に支えるのが当然」という論理が委員会に持ち込まれたこと。

  • 目片委員が「バス停の前の家の人に聞いて回るべき」と、県政世論調査の粗さを鋭く指摘したこと。



5月委員会の議論


「交通税」は行政用語ではない

大橋委員が「交通税というフレーズを行政として使っているのか」と質問し、税政課長が「行政としては使っておりません。あくまで地域公共交通を支えるための税制という言葉を使っております」と回答しました。名称の選び方一つにも、県民の反発を避けようとする慎重さが見えます。



松本委員の根本的な問い

松本委員が「税財源をどうするかという根本的な問題は議論されたのか。今の税財源の中で配分を見直した上で、新たな税負担を県民に求めるという議論がされたのか」と質問しました。


税政課長は「増税を前提に議論をしたのではなく、新たな税制の導入の可能性として諮問した」と釈明しつつ、「予算の組み替えをして必要な財源を確保すべきだという御意見もありました」と認めました。つまり、審議会の中にも歳出見直しを求める声はあったのに、それが答申の本流にはなっていなかったことが分かります。

松本委員はさらに「滋賀県だけ増税すればいいという問題ではない。国の恒常的な交付措置を求めるべき」と、国への財政要求の必要性を主張しました。



近江鉄道の脱線事故

2月に多賀線で発生した脱線事故について、近畿運輸局の特別監査で枕木の損傷が広範囲に確認されたことが報告されました。令和6年度の上下分離後、この劣化したインフラを県と市町が引き受けることになります。松本委員は「沿線全体の基礎的な部分が脆弱になっている」と指摘しています。



6月委員会──宇都宮教授の参考人意見


「独立採算が成り立つ国は世界にない」

関西大学の宇都宮浄人教授が参考人として招かれ、欧州の公共交通政策を軸に約40分の講演を行いました。


宇都宮教授の主張の核心は明快です。「公共交通の独立採算で成り立っている国は世界にない」「日本は高度経済成長とバブルという特殊な時代に民設民営が成り立ってしまった。その特殊な制度を続けるほうがおかしい」。


具体的にはオーストリア・ザルツブルク州(人口56万人)の事例を紹介し、道路予算を16%削減して公共交通予算を43%増やした政策転換、車両更新と運行頻度増加による利用者回復、上下分離とPSO契約によるガバナンスなどを解説しました。


また、通学定期の割引が事業者負担になっている日本の仕組みを「教育政策を鉄道利用者だけで支えている。受益と負担が合っていない」と批判し、公的資金の投入を正当化する論理を展開しました。



委員からの質疑


目片委員が「なぜ県民は公共交通に乗らないのですか」と直球の質問を投げました。管理監は「運行本数が少ない、バス停までの距離が遠い」と答えましたが、目片委員は「家の目の前にバス停があっても本当にバスに乗るのか」「バス停の前の家の人に聞いて回るべき」と、県政世論調査の粗さを指摘しました。


加藤委員長も「取る証拠のデータを間違えると政策が違うほうへ行ってしまう」と釘を刺しています。



感想


宇都宮教授の講演は、交通税推進の理論的バックボーンを委員会に植え付けるものでした。「独立採算は世界の非常識」「公的支援が当然」という論理は、いくつかの重大な問題があります。


第一に、欧州と日本の比較には慎重さが必要です。欧州の公共交通が公的支援で成り立っているのは事実ですが、それは都市構造、税制体系、国民負担率、規制環境がまったく異なる前提の上に成り立っています。ザルツブルク州の成功をそのまま滋賀県に適用できるかのような議論は、比較の前提を欠いています。

 

第二に、「道路予算を削って公共交通に回す」というザルツブルク型の政策転換は、既存の歳出の見直しです。これは私たちが一貫して求めてきたことでもあります。しかし、滋賀県の議論では、歳出の組み替えではなく「新たな税」が前提になっています。宇都宮教授の事例が示すのは「増税しなくても予算の組み替えで対応できる」という可能性ではないでしょうか。

 

第三に、目片委員の「なぜ乗らないのか」という問いは本質的です。バス停を増やし本数を増やせば利用者が増えるという前提で交通税を導入しても、実際に県民が車を手放さなければ、税金は空気を運ぶバスの赤字補填に消えるだけです。松本委員が指摘した「既存の税財源の配分見直し」の議論が審議会で脇に追いやられたことと合わせ、「増税ありき」の構図が改めて浮き彫りになりました。

 

 

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