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交通税の「種」はここで蒔かれた――第1回滋賀県税制審議会(2019年7月)議事概要を読む


交通税の「種」はここで蒔かれた――第1回滋賀県税制審議会(2019年7月)議事概要を読む

2018年6月、三日月知事は2期目の当選を果たします。

そして翌年2019年7月1日、滋賀県庁で「第1回滋賀県税制審議会」が開催されました。三日月知事肘入りで新設されたこの審議会は、その後の交通税構想へと繋がっていく出発点です。議事概要を読み解いていきます。



税制審議会の設置と委員構成

この審議会は、三日月知事が自ら委員候補の元へ足を運んで就任を依頼したという、異例の経緯で設置されました。諸富徹・京都大学教授(財政学・環境経済学)が会長に、佐藤主光・一橋大学教授が副会長に選出され、川勝委員、勢一委員、松田委員を含む5名でスタート。さらに、慶應義塾大学の井手英策教授にも委員就任が内定しており、後日合流予定とされました。

 

知事のあいさつでは「新しい自治への挑戦」「受益と負担のあり方の検証」といった言葉が並び、この審議会にかける意気込みが伺えます。

 

当面の諮問事項と「交通税の布石」

初年度の正式な諮問事項は、法人県民税法人税割の超過課税と、中小法人に対する不均一課税のあり方です。加えて、琵琶湖森林づくり県民税のあり方も審議予定とされました。

 

注目すべきは、知事が「来年度以降」の検討テーマとして挙げた内容です。琵琶湖の活用、廃棄物対策、そして「公共交通の財源のあり方」が明確に言及されています。つまり、交通税構想の種は、この第1回の時点で知事自身の口から蒔かれていたことになります。

 


議論の主要論点

滋賀県の産業構造と税収の脆弱性

佐藤副会長は、滋賀県がベッドタウンとしての性格を持ち、今後高齢化が進めば給与所得者が年金生活に移行し、住民税収が大きく落ち込むリスクを指摘しました。また、法人二税への依存度が高く、超過課税の負担が上位数社に集中している可能性があるとして、「その企業が潰れたりいなくなったりすると、そのまま税収が消える」とサステナビリティへの懸念を示しています。

 

諸富会長も、滋賀県の第二次産業比率が45.2%と全国平均(26.3%)を大きく上回る点を取り上げ、製造業への依存が強みである反面、デジタル化の進展によって将来はリスクに転じる可能性に言及しました。

 

森林環境税と国の森林環境譲与税の重複問題

佐藤副会長は、国の森林環境譲与税との棲み分けが大きな課題であると指摘しました。市町村にお金が流れる仕組みの中で、重複をどう整理するか。啓発や教育といった「森林と関係ないよね」という使い道に流れるリスクも挙げ、琵琶湖の水面管理も含めて使途を柔軟に考えるべきではないかとの提言がありました。


 

車社会の行方と公共交通

川勝委員が、滋賀県の自動車関係税収の比率が高い点に注目し、「知事が目指す県の将来像は車社会ではないはず」として、「脱車社会、公共交通中心の地域づくりを目指すような税制の転換」の必要性を述べました。これに佐藤副会長も応じ、高齢化で車を持てなくなる住民が増えれば公共交通の問題が浮上する一方、自動車関連税収は落ちるという「二重苦」の構造を指摘しています。

三日月知事はこれを受けて、「公共交通の財源をどうするのかは、不可欠な議論」と明言しました。

 

受益と負担の議論

勢一委員は、人口減少下での受益と負担の再検討が避けられないとしつつも、「受益と負担を正しくやるべきだが、それなりに難しいところがある」と述べました。福岡県の宿泊税をめぐる県と市の対立事例も引き合いに出し、受益論を突き詰めると地域間対立に発展しかねないことへの注意を促しています。

 

 

全体を通じて見えるもの

第1回の議事概要を通読すると、この審議会が単なる既存税制の継続審査にとどまらず、滋賀県の将来像と税制のあり方を包括的に議論する場として設計されていたことがわかります。委員はいずれも財政学・行政法・環境経済学の第一線の研究者であり、知事が自ら足を運んで就任を依頼したという力の入れようです。

 

そして、正式な諮問事項には含まれていない「公共交通の財源」が、知事あいさつと議論の双方で繰り返し登場しています。交通税は突然降って湧いたものではなく、2019年の審議会設置時点から知事の頭の中にあった構想を形にしていく流れに入ったということが、この議事概要から読み取れます。

 

 

感想

この議事概要を読んで強く感じるのは、「交通税ありき」の流れがいかに早い段階から敷かれていたか、ということです。

 

知事が来年度以降の検討テーマとして公共交通財源を挙げたのは、あくまで「例えば」という前置き付きでした。しかし、川勝委員の「脱車社会」発言、佐藤副会長の高齢化と自動車税収減の指摘、そして知事自身の「不可欠な議論」という締めくくりを見ると、第1回にして既に公共交通への新たな財源措置という方向性が形づくられつつあったことがわかります。

 

委員の先生方の分析自体は傾聴に値するものもあります。産業構造の将来リスク、法人二税への過度な依存、森林環境譲与税との重複整理など、地方財政が抱える構造的な問題を的確に捉えています。

 

しかし、問題はこうした学術的な分析が、「だから新しい税が必要だ」という結論に短絡的に結びつけられてしまうことです。歳出の見直し、行政の効率化、不要な事業の廃止といった「出を制する」議論は、この場ではほとんど深掘りされていません。勢一委員がデジタル化による効率化に触れた程度で、具体的な歳出削減策の検討には至っていません。

 

「受益と負担」という言葉は何度も登場しますが、県民が本当にその負担に見合う受益を得ているのかという検証は後回しにされたまま、新たな財源確保の議論だけが先行しています。滋賀県民にとって必要なのは、まず既存の支出が適正かどうかの厳しい精査であり、それなしに「足りないから新税」という議論に進むのは順序が逆ではないでしょうか。

 

この第1回議事概要は、交通税問題の原点を知る上で欠かせない一次資料です。今後の連載でも、審議会の議論がどのように交通税構想へと収斂していったのか、引き続き追っていきます。

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