「ごね得になってしまう」――森林税の受益と負担をめぐる白熱した議論 第4回滋賀県税制審議会(2020年1月)議事概要を読む
- 喜多G13

- 2 日前
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2020年1月29日、第4回滋賀県税制審議会が開催されました。井手委員は欠席で、5名の委員が出席。今回の目玉は、滋賀県森林審議会の栗山浩一会長と小杉緑子森林保全部会長を招いての意見交換です。琵琶湖森林づくり県民税のあり方について、財政学の視点と森林政策の現場感覚がぶつかり合う、密度の高い議論が展開されました。
なお、冒頭で副知事から、前回までに議論した法人県民税法人税割の超過課税・不均一課税について、答申に基づき2月定例県議会で条例改正を進める旨の報告がありました。
佐藤副会長の追及――「水膨れ」への懸念
佐藤副会長は冒頭から、県民税と森林環境譲与税の棲み分けについて厳しく問いました。県民税7億円に加えて市町分を含む譲与税が約5億5千万円追加されることで、財源が事実上倍増する。「9億円かかると言われても、果たしてそれは精査をした上でやっているのか」「すみ分けが少し甘い」と、事業規模の膨張に警鐘を鳴らしました。
特に懸念として挙げたのは、県と市町の間で事業の重複が生じないかという点です。人材育成を県がやりつつ市町も譲与税で実施する、木材利用を県民税事業で残しつつ市町も同様の事業を行う。「ふたを開けてみれば県もやるし市町もやるとなると二重にお金が出ていく」という指摘は具体的でした。
事務局(森林政策課)は、昨年度に具体的な事業レベルで棲み分けを行い、森林境界明確化や薪ストーブ設置支援、市町主体の環境林整備、身近な木育・中学生林業体験などを県民税事業から廃止し、市町の譲与税に移管したと説明しました。ただ、佐藤副会長が求めた「譲与税でやる事業のリスト」は次回への持ち越しとなり、全体像の把握は持ち越しです。
森林環境譲与税の構造的問題
佐藤副会長は、譲与税の配分基準に人口が含まれることの問題を繰り返し指摘しました。人口割で最も多く配分される大津市に、果たしてそれだけの森林整備ニーズがあるのか。一方で譲与額が数十万円にとどまる竜王町や甲良町では、独自事業など実質的に不可能です。
この構造的な歪みに対し、佐藤副会長は「広域行政」の枠組みでの活用を繰り返し提案しました。県全体として森林施策のニーズがあるなら、各市町にバラバラに配分するのではなく、広域で拠出して使う方が合理的ではないかという論理です。
しかし森林審議会の栗山会長は「譲与税はあくまでも市町がどう使うか決める権限がある」として、制度の限界を率直に認めました。「もともと森林の保全というのは、市町単独で出来るものではなくて、広域的に考えなくてはいけないにもかかわらず、税金としては市町単位でお金が配られる。その辺りが少し限界点」という発言は、制度設計そのものへの根本的な疑義です。
白熱した論争――森林所有者の責任
この日最も印象に残るのは、佐藤副会長と栗山会長の間で交わされた「所有者責任」をめぐるやり取りです。
佐藤副会長は、県民から均等割の超過課税として徴収した税を私有林の整備に充てることの正当性を問いました。「本来、施業や間伐から利益を得るのは所有者であって、第一の受益者は所有者」「部屋の掃除を税金でやってもらっているようなもの」という鋭い例えで、所有者にもっと管理責任を求めるべきだと主張しました。
栗山会長は、森林の公益的機能(水源涵養、県土保全、生物多様性など)の恩恵を都市住民も享受していることを根拠に、受益者負担として県民税を位置づけました。
佐藤副会長はさらに踏み込み、「所有者が利活用する意思がない」という実態を確認した上で、「そうだとすれば、やっぱり所有者が負担すべき。責任を放棄しているわけだから」「それだとごね得になってしまう」と述べました。空き家問題との類比で、「周りが迷惑するから市の税金で除去しろと所有者が言ってはいけない」という論法です。
これに対し栗山会長は、高度経済成長期に国が補助金を出して杉の造林を推奨した歴史的経緯を指摘し、「国が税金をかけて補助金をつけて杉の人工林に変えた結果、今非常に大きな問題が起きている。それに対して全ての責任を所有者に押し付けるのはさすがにまずい」と反論しました。
小杉部会長も、空き家と森林は公益性の規模が異なるとして、「国土としての機能を国民全体が享受しているので、それに対して整備をするという公共性の考え方が山に対しては大きい」と補足しています。
佐藤副会長は最終的に「森林税は恒久的にやっていい制度かどうかというと微妙。ある意味これは緊急避難。百年も続けるのかと言われたら、そうではない。だから出口がどこかになければいけない」と、出口戦略の必要性を強調して締めくくりました。
その他の重要な指摘
川勝委員は、琵琶湖森林づくり県民税が実質的に使途を特定した超過課税であることから、「一般財源以上に透明性の確保と説明責任が求められる」とし、事業の短期・長期の区別や優先順位づけの必要性を説きました。
勢一委員は、県全体のマネジメントの観点から、「各市町の最適解が、県全体の最適解ではない可能性が高い」と指摘。市町の関心が重なる分野にだけお金が集中し、本当に手当すべき場所に予算が回らないリスクを懸念しました。
松田委員は、県民税事業・譲与税事業だけでなく、従来の一般会計事業も含めた林業全体の事業一覧の提出を求めています。全体像なしに個別の財源の議論をしても意味がないという、基本的だが重要な指摘です。
なお、琵琶湖森林づくり県民税の方向性に関する議論は時間切れで次回送りとなりました。
感想
この第4回は、委員と森林審議会との間で真正面からの議論が交わされた、読み応えのある回でした。
佐藤副会長の「ごね得」発言は刺激的ですが、所有者責任と公益性のバランスという本質的な論点を突いています。確かに森林の公益的機能は広く認められるところですが、だからといって所有者の管理責任を完全に免除し、その費用を県民全体の超過課税で賄い続けることが永続的に正当化されるかは別問題です。「これは緊急避難であって、出口がなければならない」という佐藤副会長の指摘は、目的税的な超過課税のあり方を考える上で極めて重要です。
一方、栗山会長の歴史的経緯の指摘も無視できません。国策として推進された拡大造林政策のツケを、現在の所有者個人に全て背負わせるのは確かに酷です。ただ、佐藤副会長が言うように「国が誤った政策をやってそれに誘導されて大損をこくというのは林業だけでなくて、住宅もそうだし中小企業もそう」というのもまた事実であり、過去の政策失敗を理由に際限なく公的資金を投入し続けることの是非は、冷静に検討されるべきでしょう。
もう一つ注目すべきは、森林環境譲与税の配分をめぐる構造問題です。人口割で都市部に多く配分される一方、本当にニーズのある山間部の市町には少額しか届かない。そして市町に使途の決定権がある以上、県が全体最適のためにコントロールすることが難しい。この「制度の限界」を栗山会長自身が認めているのは正直な態度ですが、裏を返せば、制度設計段階で広域的な視点が欠落していたということでもあります。
この「財源は来るが使い方の統制が効かない」「専門人材がいないまま予算だけが配分される」という構造は、今後新たな税や財源を議論する際にも教訓となりうるものです。お金を集めることと、それを有効に使える体制を構築することは、全く別の課題です。前者だけが先行すれば、佐藤副会長が懸念した「水膨れ」や、勢一委員が指摘した「各市町の最適解が県全体の最適解ではない」状態が現実化します。交通税の議論においても、仮に財源を確保したとして、それを各地域の公共交通にどう配分し、誰がマネジメントするのかという問いは避けて通れないでしょう。


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