超絶イミフなジェンダー平等債
- 喜多G13

- 12 分前
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この記事のポイント
滋賀県が自治体として国内初の「ジェンダー平等債」50億円を発行し、利率2.069%の5年債が完売しました
目標未達時の「ペナルティー」は基金へ500万円(発行額の0.1%)の追加拠出で、その財源は県の財政、つまり県民の負担です
県債のため使い道は建設事業などに限られ、ジェンダー平等の施策そのものには直接回りません
県は通常債より0.02%低い利率で発行できたと説明しますが、元本と利息を返すのは将来の県民です
認証を受けた企業は入札や公共調達で優遇され、価格や技術以外の基準が競争条件に影響します
認証は取り組みの「手続き」を測る指標で、賃金格差そのものを直接縮める仕組みではありません
制度を運用する行政コストの規模が、県民に見える形で示されていません
滋賀県「ジェンダー平等債」は誰のための債券か
2026年6月、滋賀県が「ジェンダー平等債」を発行し、利率2.069%の5年債50億円分が6月5日に完売したと報じられました。地方自治体としては国内初で、34の投資家が購入したとされています。仕組みは「サステイナビリティー・リンク・ボンド」(SLB)と呼ばれるもので、県がジェンダー平等に関する目標を掲げ、達成できなければ県がペナルティーを負う、という建て付けです。
新しい取り組みとして好意的に報じられていますが、制度の中身を一つずつ確認していくと、県民の立場からは見過ごせない問題がいくつも見えてきます。
なんでやねん!!
「ペナルティー」が県民の追加負担になっている
SLBは本来、目標を達成できなかった発行体に金銭的な負担が生じることで、達成への動機づけを与える仕組みです。ところが今回の滋賀県の「ペナルティー」は、目標が未達だった場合に、ジェンダー平等の推進に資する事業の財源となる基金へ、発行額の0.1%、つまり500万円を追加で積み増す、という内容です。
ここで立ち止まって考えたいのは、この500万円がどこから出るのか、という点です。基金に積まれるお金は県の財政から支出され、最終的には県民の負担につながります。つまり「目標を達成できなかった罰」として用意されているのは、担当者が身銭を切ることでも、政策を決めた人が責任を取ることでもなく、県民の負担でさらに公金を支出する、という結末なのです。
しかも、その金額は50億円の調達に対してわずか500万円、割合にすれば0.1%にすぎません。仮に目標を外しても、ペナルティと呼べるほどの負担にはなりません。これでは「達成への強い動機づけ」というSLB本来の趣旨は、ほとんど形だけのものになっていると言わざるを得ません。
「平等債」の名前とお金の使い道がかみ合っていない
地方債は原則として、ジェンダー平等の施策のようなソフト事業には直接充てられず、建設事業費や災害復旧事業費などに使い道が限られます。今回の50億円も、集めたお金そのものがジェンダー平等の施策に直接使われるわけではなく、建設事業などに充てられます。
そうなると、「ジェンダー平等債」という名称は、調達するお金の中身ではなく、あくまでラベルとして付けられているにすぎません。普通の建設財源に、ジェンダーという付加価値のあるラベルを貼って売り出した、と見ることもできます。機関投資家がこの債券を購入する背景には、ESG(環境・社会・企業統治)への配慮を投資方針に掲げる事情があります。投資家は自らの実績として「社会的な債券に投資した」と説明でき、県は「先進的な取り組み」として広報できる、双方にとって都合のよい看板になっています。
なお県は、この債券を通常の県債より0.02%低い利率で発行できたと説明しています。たしかにこの点だけを見れば、資金調達のコストはわずかに下がったと言えます。ただ、それでも50億円の県債である以上、元本と利息はこれから県の財政、つまり県民が返していきます。問われるべきは、0.02%という小さな利率低下と引き換えに、政策目的のラベルを付け、認証制度や基金への追加拠出という仕組みまで組み合わせる必要が本当にあったのか、という点です。
認証制度が公正な競争をゆがめている
県が掲げた目標は、2029年度末までに「女性活躍推進企業認証制度」の認証企業数を大きく増やすことです。この認証を受けた企業には、建設工事の入札参加資格審査でのポイント加算や、公共調達での優遇というメリットが与えられます。
本来、公共工事や公共調達は、価格や技術、品質といった事業そのものの実力で競われるべきものです。ところが認証ポイントという、価格や技術とは別の政策目的による加点が入ることで、認証を取った企業が、取っていない企業より入札で有利になります。市場原理を重視する立場からは、ここに競争のゆがみが生じていると見えます。
企業からすれば、純粋な経営上の判断としてではなく、公共の仕事を取るために認証を追いかける動機が生まれます。一方で、規模や業種の事情から32項目の基準を満たしにくい企業は、たとえ価格や技術で優れていても不利な立場に置かれかねません。県が認証という物差しで「望ましい企業」を選び、税金で発注する仕事を通じてその方向へ誘導している構図です。どの企業と取引するかを決めるのは、本来は市場であって、県が用意した認証ではないはずです。
直接の因果関係はない!
賃金格差は認証企業を増やせば縮まるのか!?
県の女性活躍推進課は、県内企業は全国と比べて女性の就業率が高い一方、男女間の賃金格差が大きいことを、目標設定の理由に挙げています。県は、認証企業を増やすことが格差の縮小に寄与すると説明しています。
しかし、認証制度が見ているのは、育休取得率や管理職登用への取り組みといった32項目、いわば「手続き」や「取り組みの姿勢」です。賃金格差という結果そのものを直接測る指標ではありません。賃金の差は、業種の構成や働き方、就業時間、本人のキャリア選択など、さまざまな要因が絡み合って生じます。認証企業の数を倍に近づけるという数値目標は、目的である格差の是正ではなく、その手前にある手段の数を数えているという面があります。
懸念されるのは、公共調達で優遇されるという「ご褒美」があるために、企業が中身よりも認証の取得そのものを目的にしてしまうことです。チェック項目を形だけ満たして認証を得ても、実際の賃金や働き方が変わらなければ、県が掲げた本来の目的は達成されません。
行政コストは県民に見える形になっているか
この取り組みを動かすには、債券を設計し、認証制度を運用し、基金を管理する人手と費用が必要です。実際に「女性活躍推進課」という部署が制度の運営にあたっています。ただ、債券の発行や認証制度の運用、基金の管理に、いったいいくらかかっているのか、その規模が県民にわかる形で示されているとは言えません。新しい看板を掲げる前に、まずはこうしたコストの見える化が必要です。
新しい制度を一つ作るたびに、それを回すための行政コストが上乗せされていきます。国民負担率を下げ、できるだけ小さな行政で県民の手元にお金を残すという考え方からすれば、今回の取り組みは逆の方向に進んでいます。
女性が働きやすい職場づくりが大切であることに異論はありません。ただ、それを実現する力を本来持っているのは、人材を確保しようと競い合う企業であり、働く場所を選ぶ一人ひとりです。記事で紹介された長浜市の建設業者のように、社員の声から1時間単位の有給制度が生まれた事例は、まさに現場の工夫と企業の自発的な判断から生まれたものでした。県が認証と公金で上から誘導しなくても、よい職場は現場から育っていきます。
50億円という借金には、当然これから利息がつき、いずれ県民が返していくことになります。その重さに見合うだけの効果が「ジェンダー平等債」という看板にあるのか、県民の一人として立ち止まって問い直す必要があると感じます。


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