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「広く薄く負担」の論理はここで固まった――第2回滋賀県税制審議会(2019年10月)議事概要を読む


2019年10月17日、第2回滋賀県税制審議会が開催されました。今回から慶應義塾大学の井手英策教授が委員に加わり、6名体制での議論となっています。法人県民税法人税割の超過課税と中小法人への不均一課税について、経済団体からのヒアリングを交えた実質的な方向性の議論が行われました。




井手委員の参加と冒頭の問題提起

注目すべきは、井手委員が最初の発言で事務局の姿勢に釘を刺した点です。高齢化が税収に与える影響のシミュレーションについて、「税の減収だけが発生するのではなく、歳出面も減っていくものであるはず」「税収が減っていくので増税しなければいけないというようなメッセージになってしまうのではないか」と指摘しました。

 

歳入と歳出の両面を見なければ議論が歪むという、至極まっとうな指摘です。ただし、この問題意識が後の議論でどこまで貫かれたかは、注視する必要があります。

 

経済団体ヒアリング――現場の声

 

中小企業団体中央会(安田副会長)

安田氏は、県内中小企業の業況DIが悪化傾向にあること、運送業界の人手不足と高齢化、社会保険料率の上昇による人件費圧迫を具体的に述べ、「今、中小企業にさらなる負担を強いる変更は望ましくない」と明言しました。また、超過課税についても「単に県の財政が不足するからということではなく、意義や効果について丁寧に説明し、各方面の理解を得てから実施していただきたい」と要望しています。

 

不均一課税をやめられる条件について問われると、「大企業と中小企業が対等な関係になること」を挙げつつも、「全然先が見えない」と率直に語りました。中小企業団体中央会の会員数が2年間で1万3,200から1万2,000に減少しているという数字は、事業承継の困難さを如実に示しています。

 

滋賀経済同友会(大日特別幹事)

大日氏は、消費税増税や米中経済戦争の影響から「今、県の税制を変えるのは時期が悪い」と述べました。むしろ、滋賀県の不均一課税の対象範囲が全国トップであることを「売りにすべき」として、県外企業の誘致に活用する積極的な提案を行っています。

 

また、事業承継における税負担と個人保証の問題、スタートアップ支援におけるベンチャーキャピタルとの出会いの場づくり、失敗しても復帰できる社会環境の重要性など、現場に根差した提言が多く出されました。

 

委員の議論――「広く薄く」への収斂

経済団体の慎重論に対し、委員の議論は「課税範囲を広げる」方向でほぼ一致していきました。

 

井手委員の論理

井手委員は、法人税率引き下げを繰り返してもバブル崩壊後の実質成長率は1%程度にとどまっていると指摘し、「税率引き下げで企業を呼び寄せて成長しようというモデルが成立しているのか」と疑問を呈しました。その上で、消費税が引き上げられ国民全体が負担を分かち合う流れの中、地方自治体でも「可能な限り広く薄く負担をしていく方向が望ましい」と述べ、不均一課税の対象を広げることに賛成の立場を示しました。

 

ここで注意すべきは、井手委員の論理構造です。「自治体が再分配を引き取りすぎることには反対」という立場から「広く薄く」を導いていますが、この「みんなで痛みを分かち合う」という論法は、後に交通税の議論でも繰り返し登場するレトリックの原型とも言えます。


 

佐藤副会長の本音分析

佐藤副会長の発言は率直でした。滋賀県の超過課税について「本音ベースでやってきた」と断じ、法人税額5,000万円超という線引きは「明らかに県外企業をターゲットにしている」と指摘しています。

 

その上で、県外企業をターゲットにし続けることの持続可能性に疑問を呈し、安定財源を求めるなら個人住民税や法人県民税均等割など別の選択肢があること、法人事業税への切り替え(静岡県方式)も一案であることを提示しました。ただし時間的制約の中で、不均一課税の範囲を段階的に広げる(所得基準の導入、税率を+0.4%から段階的に引き上げるなど)という現実的な提案も行っています。

 

その他の委員

勢一委員は「広く薄く」の方向性に賛同。川勝委員は、超過課税・不均一課税がこれだけ長く続いていること自体を「異常」と表現し、「逃げないで見直しをしていくことが必要」と述べました。松田委員は、資本金1億円・法人税額5,000万円という基準に「はっきりとした根拠があるわけではない」として、変更の余地があるとの認識を示しています。

 

 

諸富会長のまとめと次回への布石

諸富会長は、「課税の範囲をもう少し広く考えていくべきではないかというのが意見の大勢」と総括し、次回の審議会では事務局に答申案を作成させ、それをベースに議論する段取りを示しました。

つまり、第2回の時点で「不均一課税の対象を広げ、より多くの法人に負担を求める」という方向性が事実上固まったことになります。


 

感想

この第2回議事概要で最も印象的なのは、経済団体の声と委員の議論との温度差です。

安田氏も大日氏も、中小企業の厳しい現実を具体的な数字と実感を交えて語りました。業況DIの悪化、会員企業の急減、人手不足、社会保険料負担の増大。これらは机上の理論ではなく、日々の経営の中で直面している問題です。

 

一方、委員の議論は「広く薄く」「みんなで痛みを分かち合う」という方向にきれいに収斂していきました。学術的にはそれぞれ筋の通った議論ではありますが、経済団体からの「今は時期が悪い」「先行きが不透明」という訴えに対して、正面からの応答が十分になされたとは言い難いように感じます。

 

佐藤副会長が超過課税を「本音ベース」「県外企業ターゲット」と喝破したのは、審議会の議論の中で最も誠実な部分だったかもしれません。裏を返せば、学術的な「広く薄く」の論理は、「もっと多くの人から税を取りたい」という県の本音を正当化する理論的外装としても機能しうるということです。 

 

井手委員が冒頭で「歳出面のシミュレーションも必要」と指摘したにもかかわらず、その後の議論で歳出削減の具体論はほとんど出てきませんでした。「お金がないからもっと広く取る」という議論は進む一方で、「お金の使い方を見直す」議論は置き去りにされています。

この「増収ありき」の議論構造は、後の交通税をめぐる審議会の議論にもそのまま引き継がれていきます。第2回の議事概要は、その思考パターンの原型を見せてくれる資料です。

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