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​近江鉄道と上下分離方式

29年間連続赤字!
日本一運賃が高い地域鉄道
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近江鉄道は滋賀県東部にあるローカル鉄道で、彦根市、近江八幡市、甲賀市、東近江市、米原市と、日野町、甲良町、愛荘町、豊郷町、多賀町の5市5町間で運行しています。車社会ゆえに通勤と通学、交通弱者の方が少し利用するだけとなっており、彦根市に大きな工場が出来た時には利用者が増えましたが、工場に勤める人も車を買うようになり、利用者は減少。

交通税の概要のほうで述べた通り、交通税とは近江鉄道の維持のためのもの、と誤解されている方が非常に多いくらい、「日本一運賃が高い」近江鉄道の29年連続(2023年現在)の赤字経営は厳しいのです。筆者(令和6年時点で40代後半)が高校生のころから、つまり30年以上も前から経営状況は既に話題となっており、廃線の心配が頻繁に行われてきました。今後も更なる赤字拡大が見込まれます。
 

実際の年間乗車数はおよそ369万人(2020年度)で、主に通勤や通学に利用されていますが、この数に関してもしっかりと正確な数は把握していないとのこと。しかし、平日の昼間はほぼ乗客がいない列車もあり、50年前と比べて6割以上減っています。

 

滋賀県減税会 減税 交通税

1994年以降、赤字が続く

年々拡大する営業赤字は18年度には3億8千万円

駅や線路の維持管理費も非常に高額で、年額平均で5億ほどの酷い赤字が続いています。 維持経費などを含めると7~8億程度でしょうか。

 

近江鉄道は「民間企業の経営努力による事業継続は困難」として2016年、滋賀県に協議を申し入れました。

 

近江鉄道経営努力1.png

 ※近江鉄道ホームページより(https://www.ohmitetudo.co.jp/file/group_oshirase_20181218.pdf) 

  

銚子電鉄のように経営努力を使用とされました。グッズの販売や運転体験などのイベント、ワイン列車などなど・・・しかしそれでも利用者は増えません。

列車を自分で少し運転できる、ビアガーデン列車など様々な企画を催したり、駅の無人化、ワンマン運行など経費削減を行ったりして、経営努力を積み重ねてきたものの、自家用車の普及と人口減により、年間数億もの赤字は今後も解消できる見込みはありません。

廃線ではかえってコスト増?(怪しい)

実は近江鉄道、一時は廃線にしたらどうなるのかも検討されました。

会社は2016年、単独で事業を続けることは困難だとして滋賀県に対して支援に向けた協議を申し入れました。

 

2019年には法律に基づいて協議会が設置され、

「鉄道を残すことで自治体が負担するコスト」と

「廃線によって自治体が負担するコスト」を試算されました。

​※試算について

 

その結果、

①沿線道路の車の交通量が増加するため、道路の拡張工事の費用

②鉄道を通学で利用する高校生のスクールバスの費

などで、年間19億円が自治体負担として必要だと試算されたようです。

その金額は近江鉄道の鉄道事業に関する年間の赤字額を上回っているため、鉄道事業の赤字を穴埋めしたほうが経費を抑えられると判断されました。

​その数値がこれ↓です。

病院送迎貸し切りバスの運行 1518万

通院のためのタクシー券配布8379万

医師による往診 1.1億?!

医療費の増加 1.3億?!

​買い物バスの運行 2262万

買い物の為のタクシー券配布 6278万

通学のためのタクシー券配布 35億?!

観光地送迎貸し切りバスの運行 2261万

観光タクシーの運行 694万

自由目的のタクシー券配布 2.1億?!

土地の価値低下などによる税収現象?! 928万

これ書きながら笑っている私

医師による往診のタクシー代って、訪問診療の全医者や病院が車持ってない前提ですかね。

 

買い物や自由目的のためのタクシー券配布?

何故ここまで補償するのでしょうか?

※試算について

令和2年1月に近江鉄道沿線の住民に対して「一般社団法人システム科学研究所」がアンケートを実施。そのアンケート結果から試算されたようです。60代以上がアンケート回答者の50%を占めています。

​ 

システム科学研究所は、1972年(昭和47年)に京都の財界、学界、文化人等が発起人となり、通商産業省(現 経済産業省)所管の社団法人として設立された法人です。

アンケート内容等:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5182626.pdf

アンケートまとめ:https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5170477.pdf

​上下分離方式とは

上下分離方式とは、自治体が線路や駅舎などを土地や建物などを保有・管理し、民間がその上の部分にある列車の運行を行う運営方式のことです。列車だけでなく、空港などでもこのような方式を取られる場合があります。

この方式は、鉄道会社が維持管理費用に赤字を抱えることが多いため、自治体が管理や修繕の費用を負担することで、事業者の負担を軽減し、赤字の地域交通を維持することが狙いです。

この方式は、滋賀県内では甲賀市を走る信楽高原鉄道が2013年度から上下分離方式に移行しました。この移行により、黒字に転換しましたが、コロナ禍の影響で再び赤字となっています。

​上下分離方式のパターン

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2019年11月、「近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会」が発足。

三日月大造知事が会長で、JR西日本、信楽高原鐵道、沿線の教育委員会やPTA、大学教授などで構成されています。

そこでは2019年5月、「上下分離方式」の3パターンに分けて10年間(2018年度~27年度)の収支の試算をしました。


3パターンとは、沿線自治体が近江鉄道の、

(1)線路のみ保有した場合

(2)線路と電路のみ保有した場合

(3)線路と電路、車両の全てを保有した完全分離方式

です。

このうち、線路と電路、車両の全てを保有する完全分離だと、

①近江鉄道も年間平均約1億7900万円黒字

②自治体負担も半額(年間平均約2億9000円/国からの交付金によりほぼ半額)

になるので望ましい、という結論の試算が発表されていました。

代替手段の検

・バスはランニングコストが鉄道の約半分になるものの、バス車両の確保、初期投資として30億円必要なのと、運転手の確保の問題があるとの試算。
・バス・ラピッド・トランジットとライトレールは論外。

ということで、

いずれの交通方法も、評議会では「鉄道を存続させるよりも、優位性が見当たらない」と総合的に判断された結果に、「鉄道の存続」で全会一致したのです。

上下分離方式の導入まで

2024年に開始するため、2022年12月に近江鉄道線管理機構を近江鉄道本社敷地内で発足。2023年4月から稼働、同年12月に国土交通省にて申請を行いました。

​上下分離方式が正式に認められるには、上下分離方式により近江鉄道が黒字化することが条件のようで、2023年4月から上下分離方式の為の調整、申請のための準備が行われたようです。近江鉄道線管理機構は現時点(2023年3月時点)では当面無給であるとのこと。

(令和6年4月追記)

そして、令和6年4月1日、上下分離方式での運営が開始されました。

上下分離が検討されていた当初は線路などの設備は近江鉄道沿線地域公共交通再生評議会」に無償譲渡される話でしたが、それだと税金の問題が出るらしく、近江鉄道が有償レンタルする、と言う形になりました。

私の考え

近江鉄道が廃止されることは、近江鉄道沿線で育った(でも今まで10回も乗ったことはない)私としても悲しいし、ノスタルジックな点では廃止して欲しくありません(笑)

だから、黒字で維持が出来るなら是非頑張って欲しいところでした。

近江鉄道が私たちの景色から無くなるって、はっきりいって寂しいですよ。

でも、行政経営と税金、社会保障や福祉などのことは、気分とか印象だけで動かしてはいけないと思っています。

実際に通学や通勤に利用している方々がいらっしゃるため、近江鉄道が廃止されると、彼らが困ることはもちろんですが、不便を感じる方々もいらっしゃると考えます。しかしながら、先ほどの「近江鉄道が無くなった場合の行政の出費」のところで抜き出したものに関しては(買い物へのタクシー券配布など)、必ずしも絶対的に行政がお金を出す必要があるとは言えません。

行政のお金は、誰かのお金と考えている方もおられますが、行政のお金はあなたの税金です。そして、誰かのお金です。

目に見えてお金がなくなるわけではなくても、直接もらうわけではなくてもです。

税金によるセーフティーネットはあるべきだと思います。

それでも、公金が何かに対して「仕方がない」「可哀想」という感情だけで使われる額が増えることが当たり前、仕方ないと思ってしまうのは、税金が適正に使われているかどうかを十分に考慮しないでいるような面もあります。全てを救おうとしてアリとあらゆることに税金を投入して持続可能な公金の使い方になっていないなら、それこそ経済が回らず、弱者を護れない社会になることもあり得るのです。本当に弱者を守りたいならこそ、ある程度それぞれの環境を受け入れ、完璧な弱者救済や便利を目指してしまうと社会が破綻し本末転倒です。

近江鉄道は、今までの補助金でも、無理だったのです。

しかし近江鉄道をただちに廃止しろというのではなく、期間を設けて民間の他の事業者が参入できるように規制緩和で環境を整えることで、想像もしていなかった新たなサービスやビジネスが生まれる可能性もあります。税金が減少すれば、自由も制限され、行政の決定に従わざるを得なくなります。行政があらゆる面倒を見ることは、一方で民間が制限を受けることを意味します。これにより、新たな産業やビジネスが抑制され、民間の成長や市民の利益が減少する恐れがあるという視点もこれからは必要だと思います。

私たちは、それぞれ考えは違います。

ですが、共通のやるべきことは存在します。

「それぞれの視点でいいから、税金の使い方や徴税額が適切かどうか、政策に行きすぎや不足はないか。それを、弱者の立場だけでもなければ、現役世代の立場だけのことだけでもなく、そして子供たちの世代への影響はどうなのかと、それぞれがしっかりと様々な視点で考えること」です。

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